教育への取組み

大学生活

わたしの教育に対する考え方の原点は、自分自身の大学生活にあります。大学の授業に大きな魅力を感じて、それで自分もこんな仕事をしてみたいと決心したからです。とはいえ、大学の授業が特段、工夫にあふれていたとか、目新しいものであったわけではありません。いわゆる大教室での多人数授業、先生が一方的に学生に対して講義ノートを読み上げる授業でした。よく、無味乾燥な授業の典型として挙げられるようなタイプのものです。

しかし、どの授業を聴いていても、自分が接した大学の先生はみな、「この先生は本当にこの学問分野が好きなんだなぁ」という気持ちが伝わる方ばかりでした。淡々と授業をする先生、情熱的な先生、わかりやすい授業をする先生、難解な先生。そのあたりは人それぞれでしたが、学問に対して敬意を払い、真剣に取り組んでいる姿は、すべての先生に共通していました。特に研究の世界に入ってから感じたことなのですが、どんな大先生といわれる方でも――むしろ、大先生といわれる人ほど――学問の前では、何十年も実績を重ねた者でも、初学者でも、対等の立場にあるという姿勢を貫かれていることには、感銘を受けました。

だから、自分もそうした「真剣さ」に対して真剣にぶつかろうと考えました。そうはいっても、具体的には、講義の中のどんな細かいことでもノートに書き留める、授業は休まない、といった程度のことですが。しかし、そうした取り組みを通じて、それぞれの先生がご自身の胸のうちにどのような大系を抱いているのか、それを把握することを心がけました。

あるとき民法第一部(総則・物権法)の授業で、取得時効の話を扱う機会がありました。その後、実家に帰省した際に、父から、亡くなった祖父が、取得時効の法理を用いて具体的な土地の紛争を解決したことがあった――具体的にいうと、土地を取得したのです。――という昔話を聞かされました。祖父は、亡くなる直前でかなり健康を害していたそうですが、この土地が自分の所有になったことで、とても喜んでいたとのことでした。ただ父は、この構成は法的には少し難点があったかもしれない、とも言っていました。

これを、当時授業を受けていた能見善久先生に質問にいって尋ねたところ、先生は、「これは全く問題ありません。きみのおじいさんが、一生懸命農業をして働いていたことが報われたんですよ。これを機会に、民法をもっと好きになってくださいね。」と答えてくれたのです。最後の、「民法をもっと好きになってください」という言葉が、私の心には、とても強く印象に残りました。

こうした経験の積み重ねが、私が大学の先生になろうと思った原点です。なので、とにかく、授業を受けていただくみなさんに対して、「僕は本当にこの研究分野が好きなんだ!」という気持ちが伝わるような、そういう授業をしていきたいと考えています。私の思いが伝わって、授業を聴いてくださったみなさんが行政法を好きになってくれれば、これ以上うれしいことはありません。

自分の頭で考える訓練を

大学や大学院で学ぶということは、自分の頭で考える能力を身に付ける、ということです。専門的知識を身に付けたり、資格試験に合格するだけならば、専門学校や予備校に通うとか、自分で問題集を解くだけでも構いません。大学に行ったことの価値は、その人が特定の専門分野において、自分の頭で考える能力を身に付けたことにあります。

どんな一流大学とされる大学を出ていても、自分の頭で考えるという思考を放棄してしまった人には、何の価値もありません。逆に、大学を出ていなくても、普段から自分の頭で考えることを積み重ねてきた人は、知らないうちにこの能力を身に付けていたりします。ただ、機関としてこうした訓練を行うことができるのは、大学だけです。

そのため、みなさんには、日頃から物事の判断について、自分の頭で考える訓練が求められます。周りのみんなが言っていることだから、テレビで評論家が言っていることだから、えらい先生が著書の中で言っていることだから…というのではなく、ぜひみなさんの頭で、必要な知識を身に付けたうえで、物事の是非を判断するようにしていってください。

教育手法

これらのことが、わたしの教育手法とも密接に関係してきます。まず授業では、難解な理論を披露するのではなくて、みなさんに基本的な考え方をしっかり身に付けてもらいます。できるかぎりわかりやすく、興味を持っていただけるように、工夫したいと思います。

上でも述べたように、個人的には(授業を受ける立場としては)難解な理論を教える講義も好きなのですが、授業を受けるみなさんの多くは、そうではないと思われるからです。具体的な例を挙げたりして、可能な限りイメージをつかんでもらうことが中心です。そのうえで、現代行政が直面している法的な問題を挙げて、それがどうして問題となっているのか、深く考えてもらうことになります。

ですので、授業の際は、みなさんにただ講義を聴いてもらうだけではなく、積極的に意見・質問を求めます。かりに間違っていたとしても、みなさんが自分の頭で一生懸命考えたことや、みなさんの感覚で抱いた素朴な疑問は、決して無駄にはなりません。そうした非常に価値がある試行錯誤の積み重ねこそ、大学でしか得られない経験なのです。どうか積極的に、授業に参加してください。